統合失調症患者の不眠に不眠の認知行動療法が有効か

発表のポイント

  • 統合失調症で不眠症状が頻発することは100年以上前から知られていますが、正式な症状評価の対象には含まれておらず、治療法も確立されていませんでした。
  • 不眠症の治療法の第一選択は不眠の認知行動療法(CBT-I)ですが、症状悪化の懸念から統合失調症患者は臨床試験から除外されることが多く、統合失調症に合併する不眠症に対してCBT-Iが有効かどうかは確認されていませんでした。
  • 統合失調症に合併する不眠症に対してもCBT-Iが有効であり、統合失調症状の悪化の懸念は小さいことが示唆されました。今後のさらなる検証と、臨床への応用が期待されます。

概要

 東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻臨床神経精神医学講座の古川由己大学院生(医学博士課程)らの研究グループは、系統的レビューとメタアナリシス(注1)を実施し、統合失調症に合併する不眠症の治療法として、不眠の認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia, CBT-I)(注2)の有効性を検証し、不眠症状に有効であり、統合失調症症状の悪化には繋がる懸念は小さいことを明らかにしました。
 統合失調症の経過で不眠症状は頻発であり、今後のさらなる検証と臨床応用が期待されます。

発表内容

〈研究の背景〉
統合失調症では他の人に聞こえない声が聞こえる症状が有名ですが、様々な症状が伴い、不眠症状もそのうちの1つです。不眠症状は統合失調症の前駆症状や、再発の前兆としても出現することがあり、患者さんのQoLを大きく損なうものです。しかし、統合失調症の代表的な症状尺度には睡眠状態の評価は含まれておらず、治療法は確立されていません。不眠症の治療法としては不眠の認知行動療法(CBT-I)が薬物療法よりも長期的にも短期的にも有効かつ安全であり、第一選択として推奨されています。しかし、統合失調症に合併する不眠症については、睡眠時間が一時的に減少して症状悪化につながるのではないかという懸念から対象外とされてきました。つまり、統合失調症に合併する不眠症は重要な課題でありながら、不眠症の第一選択の治療法の対象外とされてきたのです。
 そこで本研究では、統合失調症合併不眠症に対して、①CBT-Iが不眠症状を改善するか、②CBT-Iが統合失調症場を悪化させないかを検討しました。

〈研究の内容〉
 はじめに系統的レビューを行い、公表されている臨床試験に関する論文の中から、成人(18歳以上)の統合失調症合併不眠症に対する治療法としてCBT-Iと対照群とを比較したランダム化比較試験の論文を収集し、3つのランダム化比較試験(137人の参加者)を特定しました。
 その結果、統合失調症合併不眠症に対しても不眠症状の改善効果が明らかであること、統合失調症の症状についての効果は明らかではないものの悪化させる懸念は小さいことが明らかになりました。(図1)
図1:CBT-Iの不眠症状と統合失調症症状に対する効果
〈今後の展望〉
 統合失調症合併不眠症の治療法はこれまで確立されておらず、本研究の結果を踏まえ、CBT-Iの検証がより進み、臨床応用につながることが期待されます。統合失調症の治療においては多剤併用が課題となっており、薬剤を増やさずに症状の改善に繋がる可能性があるCBT-Iに期待がかかります。

発表者・研究者等情報

東京大学大学院 医学系研究科 脳神経医学専攻
古川 由己(ふるかわ ゆうき)博士課程学生
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論文情報

Furukawa Y, Salahuddin NH, Mao J, Bighelli I, Leucht S. Cognitive behavioral therapy for insomnia in people with schizophrenia: a systematic review and meta-analysis. 
Journal of Psychiatric Research. 2025.
https://doi.org/10.1016/j.jpsychires.2025.09.083

研究助成

本研究は一部、公益財団法人先進医薬研究振興財団の海外留学助成金による助成を受け実施されました。

用語解説

(注1)系統的レビューとメタアナリシス
研究課題に則した検索を複数のデータベースで行い、あらかじめ策定した基準と照らし合わせて該当する論文を収集してまとめ、複数の研究の結果を統合することでより確かな推定を行う統計学的手法です。古川のウェブサイトのメタアナリシスの読み方もご参照ください。

(注2)不眠の認知行動療法
不眠の認知行動療法は、睡眠に関わる行動やものごとの捉え方(認知)を変えることで不眠症状を改善する非薬物療法である。睡眠薬よりも有効であることが示されており、不眠症治療の各国で第一選択として推奨されている。古川のウェブサイトの不眠の認知行動療法解説記事もご参照ください。