教育・研究・採用

教育・人材育成

見学希望の方(学生・医師)へ

将来当科における研修・入局を検討されている医学生・医師の方などに対して、随時見学を歓迎しております。

東京大学医学部附属病院精神神経科医局事務室
E-mail: JIMU-PSY@h.u-tokyo.ac.jp

ご挨拶(教室主任 笠井清登)

当教室は、日本の精神医学・医療のリーダーとなる人材を育成することをミッションとした、高い公共性を持つ精神医学教室です。

そのため、臨床、教育、研究ともに、日本の大学精神医学教室のモデルとなることを目指しております。

臨床においては、閉鎖病棟・開放病棟合わせて48床の病棟を持ち、平均在院日数30日前後と、国立大学病院精神科ではトップクラスの入院診療体制をとっています。身体科や救急部との連携、充実したメディカルスタッフとの多職種協働も特徴的です。また、こころの発達診療部・こころの発達医学分野との連携により、児童精神医学の専門家を目指すことができます。デイホスピタルやユースメンタルヘルス講座との連携による、地域における包括的ケースマネジメントという、次世代の精神医療の在り方を学ぶこともできます。

医学生や研修医の臨床教育、大学院生の研究教育においても、当教室はあらゆる努力を行ってきました。Mental Health Research Courseの創設、PhDリトリート合宿など、枚挙にいとまがありません。精神医学研究に貢献する分子生物学系、心理系、情報工学系などのPh.D.の育成も重要なミッションです。当教室の教育の充実ぶりをサマーセミナー等でぜひ体感してみてください。

研究においては、精神疾患の神経画像研究において文字通り日本の精神医学界のリーダーとしての役割を果たしてきました。統合失調症、気分障害、発達障害などの主要な精神疾患について、分子~心理・社会まで包括的なアプローチで支援法を開発することに教室員が一丸となって取り組んでいます。

こうした理念を共有できる皆さんとご一緒できますことを心より願っております。

精神科医に求められる素養

若手精神科医に求められる三つの基本:脳・生活・人生
Three essential shared capabilities for young psychiatrists: brain, real-world, and life-course

精神医学とは、脳・生活・人生の統合的理解にもとづくウェルビーイング・リカバリー支援学です。地域レベル(地域での包括的生活支援、アウトリーチなど)、国レベル(精神保健施策・コミュニティデザインなど)の社会的課題に取り組むにあたっても、その前提となるのが脳・生活・人生の理解にもとづく個人の支援ができることです。このトライアングルは、極端な生物学的精神医学や反精神医学の揺り返しの歴史を乗り越え、精神医学を発展させる基盤となるとともに、リカバリーとは何か、精神科治療において薬物療法はどのように位置づけられるのか、地域で他者に必要とされて生活することがなぜ人間のウェルビーイングにとって必須なのか、といった精神医学の基本問題への理論的な根拠を与えます。

人は、その進化の過程でおかれてきた社会環境に適応するために、高次な精神機能、およびそれを支える高度に発達した脳を持つに至りました。進化と脳という構造に規定されている人間の精神機能は、しかし、脳還元主義に帰し得ない重要な特長を持ちます。すなわち人間の精神機能は、メタ認知機能と思考の道具としての言語を基盤とし、他者・社会との交流を通じながら、自分自身の精神機能、さらには脳を改変し、発展させることができるのです(精神機能の自己制御性)。

人は、他者や社会と相互交流しながら自分自身の脳や精神機能を成長させ、自我や固有の価値を持って生きています。この自己の脳・精神と、他者・社会の接点が「生活」です。人の脳・精神機能は「生活」がよりよく成り立つように進化を遂げてきています。したがって、「生活」が成り立つ、ということは、人間にとって、価値を支えられるウェルビーイングの源です。精神疾患を持つ方のリカバリーの過程で、就労や就学、結婚や育児を支援することの科学的本質はここにあります。

人は、生涯にわたって精神的資本を高め、ウェルビーイングを達成していきます。児童期に育んだ情動・対人関係機能の基盤の上に、精神機能の自己制御性を用いて、自分自身とはどういう人間か(自我)、どういう人間になりたいか(価値・アスピレーション)を形成していく、これが思春期の本質です。どの年代の方でも、どのような精神疾患であっても、当事者が、思春期の自我や価値の形成のゆらぎを振り返り、物語る(言語化)ことがリカバリーに重要な役割を果たします。

脳・生活・人生のトライアングルモデルにもとづく「価値精神医学」の理念と実践によりリカバリーを支援できる、また、当事者のリカバリーに寄り添うことで専門家として成長できる、こうしたことが精神科医に求められる素養です。個人レベルでのリカバリー支援の素養を基盤としてはじめて、地域精神保健に変化をもたらすことができ、さらには、精神保健・予防が溶け込むコミュニティデザインとは何か、という国レベルのまなざしを持つことができるのではないかと思います。

現・元スタッフから推薦のひとこと

多数の方々から、推薦のメッセージをいただきました。

  • 池亀 天平

    東大精神神経科は様々なバックグラウンドをもつ人々が集い、日々臨床・研究に邁進しております。私は本学教養学部・同大学院で基礎生物学の研究に従事し、その後千葉大学医学部を経て2012年に入局いたしました。以降、東大病院、都立松沢病院で臨床研鑽を積むことと並行し、分子生物学的手法を用いた精神疾患バイオマーカー研究を進めております。当科の研究領域は脳画像研究、 NIRS、脳波解析、動物モデル研究、ゲノム・エピゲノム研究、児童・思春期研究など広範囲におよび、精神医学を志す方の興味に必ず答えることができると思います。最新の設備が整った新棟へ近く移転し更に研究の充実化が図られるため、精神医学研究に関心のある若手医師・研究者の方々には大いに活躍するチャンスがあると思います。

    池亀 天平

  • 石浦 朋子

    私は早稲田大学第一文学部で心理学を学び、当院の精神科デイホスピタルの研修中に精神保健福祉士を取得した後、2012年度から当科のソーシャルワーカーとして勤務しています。
    ケースワークは、病棟チームや外来主治医と相談しながら進めますが、任される部分も大きいので、院内外の連携を取り患者さんと支援者をつなぐコーディネートの技術や、多くの担当患者を持ちながら仕事配分をする力を早くに身につけることができました。工夫次第で、地域事業所の訪問や自宅の退院支援などのアウトリーチも可能です。その為、自身のスキルアップには絶好の環境と感じています。
    また、多職種間の風通しも良いので、医師向けの勉強会などにも参加でき、そこから多くの知識や新しい情報を得られるので、常に向上心を持ちながら働ける点は他にないメリットです。

    石浦 朋子

  • 市橋 香代

    岐阜大学を卒業後、神奈川県立こども医療センターで研修し、滋賀県内の病院で小児心身症を専門として臨床を行いました。民間の単科精神科病院で研修した後、地域精神科医療、精神科デイケア、統合失調症や気分障害の患者さんやご家族に対する心理教育などに取り組みました。小児科と精神科を専門とする医師として、保幼小中高とつながる青少年のメンタルヘルス活動に関心を寄せていた時、初回精神病エピソードの多施設共同研究に参加して本教室と出会いました。それをきっかけに縁あって入局し、現在は精神科リエゾンチームと教育を仕事の柱としています。活発な意見交換をしながら多様性が共存する教室の雰囲気が魅力の一つかと思います。

    市橋 香代

  • 江里口 陽介

    私は平成18年に東大の精神科で臨床研修を受け、松沢病院・小児総合医療センターで一般精神科・児童思春期精神科臨床を学んだ後、本学大学院での研究生活を経て、現在はこころの発達医学分野に勤務しています。精神科臨床では、生物学的な視点と心理学的な視点をバランスよく持つことが求められますが、両分野ともに研究が盛んであり、分野の垣根なく常に活発に議論ができる当科は非常に恵まれた環境です。また研究やサポート体制も充実しており、日常臨床の疑問点を研究に発展させることもできます。研修後の進路も多様であるため、精神科に興味がある人の熱意には必ず応えられるはずです。

    江里口 陽介

  • 榊原 英輔

    2008年に東京大学医学部を卒業し、2010年に精神医学教室に入りました。大学病院で計2年、国立・精神神経医療研究センター病院で2年間勤めた後、2014年度からは、大学院で脳機能の研究をしながら、認知行動療法の研鑽に励んでいます。
    東大精神科は情熱的な人が集まる場だと思います。病院ではリカバリー志向のカンファレンスが開催され、ロールシャッハテストの解釈があるかと思うと、長時間ビデオ脳波検査もあり、電気けいれん療法を行う傍らで、集団認知行動療法も開催されます。大学院では、生物学的研究に加えて、疫学研究や介入研究も活発になってきました。この環境に全身を浸してみれば、自分が情熱を傾けたい方向性がきっと見えてくると思います。

    榊原 英輔

  • 澤田 欣吾

    山梨大学を卒業後、松沢病院での初期研修を経て、東京大学に入局しました。入局後は専門臨床研修の後に、現在は大学院に進学し、研究にも携わっております。臨床研修で、精神医学が抱えている課題は多岐に渡り、依然として未解決なものが多いと感じ、日々の臨床を行う上で、臨床家の視点と研究者の視点とをバランス良く兼ね備えることが重要であると思い、大学院への進学を決めました。大学院では分子レベルの研究から画像研究、生活・行動レベルの研究などが広くカバーされており、また、総合大学の利点を生かし他の学術領域との連携も盛んに行われています。私も臨床家と研究者の両立ができるような精神科医を目指して日々研鑽しております。

    澤田 欣吾

  • 清水 希実子

    私は心理士として、デイホスピタルにて当科通院中の方の就労、就学などを目標にした社会復帰支援をしております。
    当科の先生方は、理念にある通り、薬物療法だけでなくその方の生活や人生を重視してくださる方が多いです。医療スタッフの意見も重視してくださり、職種の垣根を越えてディスカッションができる文化が特に素晴らしいと感じています。
    各種研修会も随時開催され、貴重な先生方のお話を伺える機会となっております。医師向けのものだけでなく、様々な関連領域の話題もあり、心理士としての研鑽を積む環境も整っています。
    このように当科は医師だけでなく医療スタッフにとっても働きやすく、成長させてくれるチャンスが多い場所だと実感しています。

    清水 希実子

  • 多田 真理子

    順天堂大学医学部を卒業後、東大病院の初期研修プログラムを経て、当教室に入局しました。東大精神科には、多様な専門性を持つ先生がおり、自身の興味・関心に沿った指導を受けることができます。私は生物学的な研究に関心があり、臨床医としての基本的な研修を受けた後に、得た疑問や解決したい事柄を大学院での臨床研究として深めることができました。卒業後も、臨床と研究を並行させて頂いています。同時に、社会医学的な視点を持つ先生から刺激を受け、学校や企業などの院外に赴く臨床経験もさせて頂き、広く社会と関わることのできる精神科の魅力を教えていただきました。このように、自身の興味を追求できること、同時に広い視野を持つ機会が得られること、がかなうのは、豊かな個性を尊重する医局の自由な雰囲気によると思います。

    多田 真理子

  • 田宗 秀隆

    2012年に東大を卒業し、初期研修後に精神神経科に入局しました。現在は初期研修も行った都立多摩総合医療センターで専門研修中です。
    当科では、多職種協働で当事者それぞれの「価値」は何かを考える、個別性を重んじた臨床を目指しており、一方では基礎・臨床ともさまざまな研究に取り組んでいます。
    将来臨床メインにやりたい人・研究メインにやりたい人・今まさに迷っている人… 医局員は多様性があり、しかもその悩みと選択を許容してくれる懐の深さがある教室です。
    著名な先生方からのクルズス・スーパーバイズはもちろん、当事者からの声を聴く会や、他科医師・他分野研究者との合同勉強会なども若手中心に企画運営されています。教育される側・教育する側の両面を体験することで、より深い学びが得られます。
    時空間を共有してお互いを高め合いましょう。

    田宗 秀隆

  • 西田 拓司

    東京大学精神神経科はさまざまなバックグラウンドをもつ人に広く門戸を開いており、中途での入局者や他大学出身者も多いです。私もそのひとりで、2000年京都大学医学部を卒業後、母校の精神科などで研修し、医師7年目で東京大学精神神経科へ入局しました。現在は、静岡てんかん・神経医療センターでてんかんの専門的医療に携わっています。東大病院在職中は、病棟と外来業務に加えて、リエゾンでの救急部との連携、てんかん診療での脳外科、小児科との連携などに携わっていました。精神神経科では幅広い臨床、研究を行っているため、そのなかで自分の特性に合わせて活躍できる場があり、やりがいをもって仕事ができます。幅広く精神医学の研修をしたい方、キャリアーアップを考えている方にお薦めします。

    西田 拓司

  • 正岡 美麻

    認知行動科学(心理学)分野の博士課程修了後、2013年に当科のコホート研究の部署に加わりました。MRI検査や心理行動指標の取得などを行い、思春期のお子さんの成長を追っていく研究の業務に携わっています。(写真の背景は、事前にお子さんに検査の流れを体験していただくMRIの模型です。)これまでの経験と異なる大人数チームでの研究実施を通して、精神医学や多人数連携時の研究流儀にも触れられ、とても勉強になっています。
    さらに、多彩な講演や勉強会等が数多く開催され、自由に参加し興味を深めて、主体的に学び続けられることも、ここの大きな魅力だと感じています。各分野の第一線の先生がゲストで来てくださることも多く、驚くほど贅沢な環境です。
    医療スタッフでなくても、臨床の視点を身近に感じつつ研究に取り組んでいきたい方には、非常にお勧めです。

    正岡 美麻

  • 水谷 俊介

    私は本学医学部を卒業後、初期研修を経て、精神神経科の門を叩きました。当院、JR東京総合病院に勤務した後、本学の基礎医学系研究の大学院に進みました。精神疾患の病態解明に、微力ながら貢献できればと思っております。
    当教室のよいところのひとつは、人を大切にすることだと思います。やる気さえあれば、意志を尊重してもらえる懐の深さ。そうした教室の姿勢は、精神療法のスーパーバイズ、リカバリーカンファなど、患者さんととことん向き合う診療・教育方針にもあらわれていると思います。
    また、多様な考えの人がいればこそ、個人、地域、社会、そして臨床、研究と幅広い視点で物事をみることができます。転換期を迎える精神医学で、今私たちが立つ場所や、これから向かう先を意識できるのではないでしょうか。

    水谷 俊介

  • 森田 健太郎

    日本医科大学の学生時代、初めて東大精神医学教室の見学会に参加し、一緒になったメンバーと、精神科医の作家が書いた新書の話題で意気投合したことを思い出します。精神科医を目指してここをまた訪れた時に彼らと再会し、今も同僚として働いています。出会った時は同じ方向を目指した“似たもの同士”でしたが、今はそれぞれにStrengthの異なる心強い仲間となりました。東大精神医学教室では、たくさんのスタッフと関わり、教育・臨床・研究と幅広く携わることができます。私はここで、単一的な“優秀さ”ではなく、多種多様な考えから生まれる”協働”が精神医療にとっていかに大切か学ばせて頂きました。今後、さらに多くの仲間と学んでゆけることを楽しみにしております。

    森田 健太郎

  • 森田 進

    私は2013年に本学を卒業し、2015年に入局しました。初期研修のうち半年以上を当科で過ごしましたが、その間、分からないなりに必死で考えた患者さんの治療方針を採用して頂いたり、治療に困った時や学会・勉強会での発表の前は何時間も付きっきりで指導して頂いたり等、チームの先生方には本当に良くして頂きました。てんかんの診療やリエゾンに携われた事も良い経験になりました。入局後は関連の公立病院で研修していますが、入局同期もそれぞれの志望に沿って充実した研修生活を送っており、勉強会等で集まった際はお互いに良い刺激を与え合っています。

    森田 進

  • 柳下 祥

    医学生のころから、現代社会の複雑さに脳がどれくらい適応できるものなのか、複雑な社会の中で人が活き活きと生活するのには何が足りないのか、どういったサポートがあればよいのかといったことを考えていきたいと思っています。笠井教授は精神医学は脳・生活・人生の統合的理解にもとづくリカバリー支援学であると展望を示されており、その中で私は脳の理解を深めることから始めたいと考えました。初期臨床研修の2年目を東大精神科で学び、その後も臨床の勉強もさせて頂きながら脳が環境に適応する柔軟性(可塑性)についての神経科学研究を行っています。東大精神科には様々なバッググランドの方々との議論の場があり、神経科学を本質的な精神医学の発展へとつなぐ土壌があると感じます。

    柳下 祥

研修の流れと特色

研修の目的

東京大学医学部精神医学教室は、あらゆる精神医学的問題に対応ができる臨床精神科医を育成するとともに、自身の専門性を生かして後進を育成できるような指導的人材を輩出することをミッションとしています。これからの精神科医は、器質性精神疾患・機能的精神疾患の科学的診断・治療や、身体疾患に伴う精神医学的状態への対応(リエゾン精神医学)、精神科救急など、医療機関における専門家としてのニーズが高まる一方、従来の医学モデルにとどまらない、多職種協働によるアウトリーチ型の包括的生活支援、就労・就学支援や、平時や災害時の市民・職業人・学生・生徒に対する保健・予防活動における貢献も期待されています。当教室の豊富な研修リソースや優れた指導者に出会うことによって、総合的な技能や人間性を磨いていただければ幸いです。

精神科医に求められる三つの基本を幅広く身につけられる研修プログラムを用意しています。

応募資格

卒後2年間の初期臨床研修を修了(見込み)の方。初期研修を他医療機関で行った方、本学の卒業でない方も歓迎致します。精神科または他診療科の専門研修経験を積んだ卒後3年目以降の医師も歓迎します。例として、小児科の経験を積んだのち、児童精神科を目指す方の応募も多いです。

研修の流れ

卒後2年間の初期臨床研修の後、卒後3年目からおおむね10年目くらいまでが人材育成のための期間です。大学病院にふさわしい専門研修として、臨床だけでなく研究や教育についてもバランスよく身につけていただくため、研修の方向性について随時当科シニアスタッフと話し合います。

基本的に精神保健指定医と日本精神神経学会精神科専門医の取得を念頭に置いた研修となります。また、大学院進学も積極的に推奨しております。精神科医として十分な臨床経験を積むためには専門研修の3年間は非常に重要なため、当教室としては大学院については卒後6年目からの入学を推奨しています。ただし、精神保健指定医より基礎研究者としてのキャリアを優先しようとする人などについては柔軟に対応する方針です。

卒後 3~5年目
東大病院精神神経科や研修協力病院(他の国公立病院や総合病院等の精神科)の組み合わせ(おおむね1~2年で交代)
卒後 6~9年目
東大病院精神神経科や研修協力病院で研修医を指導(おおむね1~2年で交代)
6年目以降に大学院を推奨(任意)
卒後 10年目以降
大学や研修協力病院での指導医
地域・産業・学校精神保健、児童精神医学、老年期精神医学、てんかん学、司法精神医学等の専門機関大学や研究機関での研究職 留学など
研修の特色

精神科診療に必要な基本的技能を習得します。
当科は閉鎖病棟(27床)と開放病棟(21︎床)の両方をもち、幅広い精神疾患を経験できます。

当科における研修の特色として

  • 精神科デイホスピタルとの連携を通して、社会生活技能訓練(SST; Social Skill Training)、認知行動療法、本人への心理教育、家族への心理教育、集団療法、就労援助、家族会などさまざまな技法を通したリカバリー支援を学ぶことができます。
  • こころの発達診療部との連携を通して、専門家の指導を密に受けながら、児童思春期精神医学や成人の発達障害の診療を学ぶことができます。
  • ユースメンタルヘルス講座の協力により、精神病早期支援、他職種協働、コミュニティ精神保健などを学ぶことができます。
  • てんかん専門医研修プログラム てんかん専門医の指導の元、ビデオ脳波を用いたてんかん診療や、専門的クルズスを通しててんかん学を学ぶことができます。
  • コンサルテーション・リエゾン研修  精神科医師、リエゾン専門看護師、臨床心理士、こころの発達診療部の医師と臨床心理士により構成されるコンサルテーション・リエゾンチームでの診療を通して、他科との良好な連携を構築し、せん妄やステロイド精神病などをはじめとした器質性精神症状への対応を身につけるなど、neuro psychiatryの研修が可能です。
  • 精神科救急 後期研修期間中、当院救急部へのローテーションが可能です。自傷行為への対応、てんかん重積や各種疾患による意識障害の鑑別を含めた重症神経管理など、救急場面での精神医学的対応や他科との連携を集中的に学ぶことで、総合病院精神科医としての能力を向上させることができます。
  • こころの検査入院 により、光トポグラフィ―と、構造化面接による精神科操作診断を学ぶことができます。
  • メモリーカンファレンス により、神経内科や放射線科と協力のもと、認知症診療を多面的に深めることができます。
  • 屋根瓦式教育 指導医のスーパーバイズを受けながら、初期研修医クルズスなどを担当し、研修医の指導をすることで、知識を深めます。
  • 学会発表 後期研修医は年に最低1回は学会発表することを推奨しています。当科常勤医師の指導を受け、日本精神神経学会、東京精神医学会、若手精神科医のためのクロスカンファレンスなどで積極的に発表を行います。
  • clinical journal club 精神科臨床のメルクマールとなる文献や著作を、指導医と共に読む抄読会を月1回開催しています。リーディングリストとして、精神科医の本棚からを御参照下さい。
  • 精神療法・心理臨床の第一人者である外部講師のオフィスを訪ねて1年間指導を受ける個人ケーススーパービジョン(TPAR: training in psychotherapeutic approaches for residents)を行っております。
  • 精神症候学・病理ゼミ(内海健先生)、精神療法ゼミ(藤山直樹先生)のシリーズをはじめ、内外の一流の専門家による充実した後期研修医クルズス、ゼミが受けられます。

また、当院勤務期間中のオプションとして、以下の短期研修(1-3か月程度)を取り入れることができます。

  • 児童思春期精神医学(こころの発達診療部)
  • 精神科リハビリテーションや多職種協働による包括的生活支援(デイホスピタル)
  • 救急患者の精神科対応(救急部)

⚪︎連携のある国公立病院等

東京都立松沢病院、東京都立多摩総合医療センター、東京都立小児総合医療センター、国立精神・神経医療研究センター、NTT東日本関東病院、虎の門病院、JR東京総合病院、東京警察病院などでの専門性の高い精神医療、精神科救急、アルコール・薬物依存、てんかん、老年精神医学、司法精神医学、認知行動療法など

*その他、教育的な精神科病院、在宅支援診療所、保健・福祉・行政機関、司法精神医学関連施設などにも研修を依頼しております。

児童精神科医を目指す方々へ

子どもは小さな大人ではなく、幼児期及び児童思春期という発達に応じた心性があり、それに応じて発症しやすい精神医学的問題が認められ、児童精神医学には独自性があります。同時に、ライフステージの中で子どものこころの問題を把握したり、家族の精神医学的な問題に対応したりする上では、一般精神医学の知識や経験は必須です。児童精神科診療においては、子どものみならず家族、臨床心理、リハビリテーション、教育、保健、福祉などの協力により情報を収集し、子どもの疾病の治療だけでなく、その家族全体に包括的医療を提供できることが重要であり、児童精神科医にはその中心的役割を担うことが求められます。

このような医師の育成のために東京大学医学部附属病院こころの発達診療部では、児童精神科医の研修コースの充実をはかっています。

こころの発達診療部では発達障害を中心として精密な診断・評価、多職種協働による多面的な治療についての研鑽を積むと同時に、最新の臨床研究に接して科学的な思考を高めることができます。しかし、外来ベースであり、児童専門病棟での診療、地域の療育機関での活動などを経験できませんので、いろいろな形態で協力医療機関、さらには療育機関での研修を組み合わせていくこととなります。

こころの発達診療部で研修できること

主に以下のような研修ができます。

  • 1年間の児童精神医学連続レクチャーシリーズを通して児童精神医学の基本が身につきます。この一環として、国内外からの講師を招いた講義も行われます。(他病院、療育施設、教育相談所、学校、児童相談所など協力施設の見学もふくみます。)
  • 外来初診を丁寧に行うことで、診断、アセスメント、ケースフォーミュレーションができるようになります。
  • 自閉症スペクトラム障害の診療と療育と研究:入院プログラムとして、成人自閉症スペクトラム障害の包括的な診断、アセスメントのためのプログラムを行っており、発達障害の国際的診断に触れることができます。また、幼児を対象とした治療教育や成人を対象とした認知行動療法のプログラムを臨床研究として行っており、医師と心理士の協同による治療を学ぶことができます。
  • 注意欠如多動性障害(ADHD)の診療と研究:薬物療法とともに、心理社会的アプローチであるペアレントトレーニングを臨床研究として行っており、医師と心理士の協同による治療を学ぶことができます。
  • チック・トゥレット障害の診療と研究:薬物療法に加えて、症状をコンロールする訓練ハビットリバーサルの臨床研究、また親の会などの活動も行っており、医師と心理士の協同による治療を学ぶことができます。
    児童精神医学分野の臨床研究(治療効果研究、脳画像研究、遺伝子研究など)に参加でき、臨床からリサーチクエスチョンを導く姿勢が身につきます。
  • 総合大学にある利点を生かして、こどものこころの発達にかかわる教育学、神経科学、進化学、心理学、工学といった多分野にわたる東京大学「こころの発達と障害の教育研究コンソーシアム」に参加しており、さまざまな分野の専門家および若手との交流ができます。(http://cermdd.umin.jp/about.html )
連携して研修を行う施設

都立小児総合医療センター児童思春期精神科、国立国際医療センター国府台病院児童精神科などに協力をお願いできます。また、国立成育医療研究センターこころの診療部フェローとして経験を積むことができます。

キャリアに合わせた研修システム

児童精神科医を目指す方は、その研修の前に精神科医、小児科医といった専門性を身につけているなど様々なキャリアを持って志されていることが多く、個々のニーズが異なると考えられます。当部は大学病院ならではの連携ができます。上記の研修の他に、以下のようなそれぞれのキャリアにあわせた研修を組み立てることができます。

小児科から目指す方
当部に所属しながら、成人の一般精神医学研修を行うことができるため、精神科の基礎を研修することができます。1年以上の成人精神科研修は一般精神医学の基礎を身につけるために児童精神科医にとって必須と考えられます。また、当部は日本小児科学会の研修関連施設として認定されており、当部での研修は小児科専門医の研修として認められています。小児科の一般研修後に小児科専門医取得を目指しながらも児童精神科医を目指す方の研修に適しています。
研修コース例
小児科後期研修終了→こころの発達医学に属しながら成人精神科研修と児童精神科研修1年→小児科専門医取得→こころの発達医学(児童精神医学)1年研修→協力研修施設2~3年研修→博士課程
精神科から目指す方
当部での研修期間中、小児の神経疾患、慢性疾患、虐待の初期対応、小児の正常発達(健診)などを学びたい場合に東京大学医学部附属病院小児科での数か月間の短期の研修が可能です。
研修コース例
精神科後期研修終了→こころの発達医学1~2年研修(小児科での研修含む)→精神保健指定医取得→協力研修施設2~3年研修→博士課程

てんかん専門医を目指す方々へ

てんかん専門医研修プログラム

当教室は日本てんかん学会より研修施設として認定されています。
すなわち、日本てんかん学会が定める教育プログラムに従って臨床研修が行われる研修プログラムを実施しております。つまり東大病院精神科で研修をしていただくことによって、てんかん専門医の受験条件を満たすことができます。

当教室でのてんかん専門医研修プログラムの特徴としては

1.EMU (Epilepsy Monitoring Unit)を通じての本格的なてんかん診断・治療の研修

患者さんの発作をビデオと脳波で同時記録を行うことによって、てんかんなのか否かといった鑑別診断や発作型の詳細な診断を行うことが可能となります。教科書を読んでいるだけでは得られないリアルなてんかん診療の経験を積むことが可能です。

2.充実した勉強会・クルズス

後期研修医向けのクルズス、検査技師や看護師などのコ・メディカル向けの勉強会などを毎月定期的に行っています。クルズスではデジタル脳波のみならず紙出力の脳波も判読できるようなトレーニングも行っており、外勤先などでの脳波判読が困らないような配慮をしています。勉強会ではEMUで得られたビデオ脳波を中心とした勉強会で一つの症例をじっくりと時間をかけて皆で勉強し、てんかん患者さんの包括的医療実践に役立てています。

3.院内他科の連携

毎月、脳外科、小児科、放射線科の先生方と合同で難治てんかんの合同検討会を行っています。各科とのてんかん診療のエキスパートとの交流をすることによって精神科研修だけでは得られない技術を学ぶことが可能です。

などが挙げられます。

またこれはadvanced コースになりますが、さらなるてんかん診療の経験をつきたい方は、国立精神・神経医療研究センター病院や静岡てんかんセンターなど日本のてんかん診療のトップを走る施設への研修をお手伝いすることも可能です。

日本では若手精神科医のてんかん離れが進んでいると言われる昨今ですが、世界的にはてんかん診療における精神科医の参加を希望する声が年々増えています。

てんかんは日本の精神科医にとって「古くて新しい病気」なのだと思います。
てんかんの患者さんの診療を通じて実に我々は多くのことを学ぶことができますし、非常に多くのてんかん患者さんが我々の助けを必要としています。一人でも多くのてんかん患者さんを救うために皆さんと一緒に働けるのを楽しみにしています。

精神科リエゾン専門医を目指す方々へ

総合病院精神医学研修

● 総合病院精神医学の重要性

精神的な問題を抱えた上にセルフケア機能が低下して、生活習慣病をはじめとした身体の不調を二次的に患う方は少なくありません。予防医学的視点を持ち、主治医として精神症状と同じく身体の健康にも配慮し、精神科通院・入院中の方の心身の健康を総合的にサポートする姿勢は全ての精神科医に必要な素養の一つです。

とりわけ総合病院に勤める精神科医には、身体疾患に伴い精神症状を呈した方が安全に医療を受けられるように、また精神疾患の持病がある方が身体疾患を患った際に、標準的な医療にアクセスできて適切な治療を受けられるように、専門性を活かした各診療科との連携が求められます。

● コンサルテーション・リエゾンチーム

当科ではこころの発達診療部と共に、精神科医、リエゾン専門看護師、臨床心理士により構成されるコンサルテーション・リエゾンチーム(通称:精神科リエゾンチーム)を作っています。入院においては精神科リエゾンチームが、外来においても各担当医が、救急部をはじめとする他科治療中の方の精神医学的問題に対して、密接な連携をとりながら心身の健康をサポートしています。

当院では特に、臓器移植や植込み型補助人工心臓、てんかん外科など、各科で高度先進的な医療が行われているため、それぞれの身体状況や治療内容を加味した精神医学的評価や治療が求められます。

せん妄や認知症、ステロイド精神病などのcommonな器質性/症候性の精神症状への対応をはじめ、サイコオンコロジー、救急部での希死念慮の評価、移植ドナー/レシピエントの同意能力の評価、児童虐待が疑われる場合の対応などの多様な依頼を受け、各診療科の主治医や病棟スタッフときめ細かく連携し、入院中の方やそのご家族が安心して治療に臨めるよう診療にあたっています。

精神症状が重症である際には、一時的に精神科病棟で入院治療を行うこともありますが、基本的にはコンサルテーション・リエゾンチームが密に介入することで、当該科の専門治療に慣れた病棟で入院治療を続けて頂くことを心掛けています。

・精神病症状の治療を受ける方の身体ケア向上への取り組み
当科では、精神病症状の治療を受ける若者の身体ケア向上を目指すHeAL(Healthy Active Lives) 宣言 日本版 2013を作成して配布するなど、心身の健康増進に取り組んでいます。
・当科での総合病院精神医学研修
当院は日本総合病院学会が認定する一般病院連携精神医学専門医(略称精神科リエゾン専門医)のための研修施設となっています。当科での後期研修中、精神科リエゾンチームに所属して総合病院精神医学を集中的に学ぶことが可能です。他科の医師や病棟スタッフと密なディスカッションを行なう中で、身体疾患に関する理解を深め、専門家として精神療法や薬物療法などを通してチーム医療の実践に携わります。当科の指導医と日々ディスカッションしながら診療を行い、毎週のリエゾンカンファレンスを通して診療を振り返り、知識を深めます。もちろんチームに所属していない期間も、カンファレンスに参加することは可能です。

また、当科では救急部の医師に総合診療医としてバックアップして頂き、精神科身体合併症管理加算の算定が可能となっています。精神科病棟に入院中の方が、専門科にカテゴライズしにくい重症の身体疾患に罹患した場合や、複数の身体的問題を有した場合などには、当科の指導医と、百戦錬磨の救急医の指導を受けながら、総合病院精神科医として心身の医療を安全に提供するための素養を養うことができます。

この他に、てんかん研修やメモリーカンファレンスを通して認知症診療を深めるなど、neuropsychiatryの研修機会に恵まれています。

精神神経科教育カンファレンス

当科では若手医師の教育のために以下のような各種勉強会を行っています。クルズスは他施設に例をみないほど多くの専門家による、充実した内容が準備されています。そのため、若手医師に限らず内外の多職種の若手からベテランまでが勉強会に参加することで、学びの輪が広がることも魅力の一つです。

また、専門家による講演形式以外にも、「教えることで学ぶ」屋根瓦教育形式や、対象者の支援を中心課題として多職種が一同に会する「ケア会議」の形式を取り入れていることも特徴の一つです。

屋根瓦教育の一環として、後期研修医が自らの興味のある重要テーマについて調べて初期研修医のためのクルズスを準備し、専門家の潤沢なフィードバックを受けます。専門家レベルの知見を、若手医師が噛み砕いて語るため、わかりやすいと好評です。また後期研修医にとっては、興味のある分野の第一線の専門家とディスカッションすることで、将来の進路を考えるよい機会となっています。

ケースカンファレンスは、年度の前半は系統立てられた症例提示を行うことができるようになることを大切にしています。年度の後半になるにつれて、地域生活における包括的なケアプランを多職種で検討し、リカバリーを支援するケア会議を、指導医のサポートを受けながら後期研修医がファシリテートできる形を目指しています。

これ以外にも、臨床系の抄読会や各研究グループの研究会など、学ぶ機会は潤沢にあります。その中の一部を下記に列挙します。

(1) 初期クルズス
初期クルズスは、主に将来精神科以外の道に進む初期研修医を対象としています。将来どのような進路を選んだとしても必要となる基本的な項目を中心としていますが、希望に応じて発展的な内容をオーダーメイドで追加することも可能です。毎月行っていますので、初期研修医以外の方の参加ももちろん大歓迎です。
  • 精神療法の基本
  • 精神科薬物療法の基本
  • 電気痙攣療法
  • 脳波の基本
  • 心理検査
  • 高齢者の精神疾患の診かた
  • せん妄診療の基本
  • 精神保健福祉法と退院支援
  • リカバリー・リハビリテーション
  • 医療現場でのコミュニケーション(ロールプレイ)
(2) 後期クルズス
後期クルズスは、バランスのとれた精神科医を養成すべく、4月から翌年3月までの1年間を通して、当科の常勤スタッフをはじめ、院内他科や関連病院から招聘した各分野の専門家による幅広い内容を準備しています。

精神神経科 後期クルズス 一部例

  • 精神療法クルズス 上智大学 藤山直樹先生 年5回
  • 精神症候学クルズス 東京芸大 内海健先生 年5回
  • 東大・NTT関東病院合同カンファレンス 
  • 慶応・東大精神科合同カンファレンス(KTPC)
  • 認知行動療法の基礎  国立精神神経医療研究センター 堀越勝先生
  • PTSDの病態と治療 国立精神神経医療研究センター 金吉晴先生
  • ロールシャッハゼミ 中村心理療法室 中村紀子先生 年7回
  • ECTの安全な施行について 麻酔科 笠原諭先生
(3) てんかん・ビデオ脳波勉強会
当科では、精神科病棟で長時間ビデオ脳波モニタリングを行い、てんかん診断を行っています。てんかん専門医の谷口豪Drが、てんかんとビデオ脳波に関するクルズスを月1回程行っており、てんかん診療を系統立てて学ぶことができます。
(4) Epilepsy board
脳外科、小児科、放射線科、臨床検査部などとの合同カンファレンスを通じて、難治のてんかん症例の診断・治療について学びます。
(5) clinical journal club
病棟医長の近藤伸介Drを中心に、精神医学のメルクマールとなる重要文献の抄読会を月1回程行っています。当科の精神医学教育の目玉の一つです。
(6) 外来薬物療法勉強会
助教の市橋香代Drを中心に、向精神薬の使用方法の基本やスイッチングの方法、外来での身体的な問題の評価などについて、実際の症例に基づいてディスカッションして学びます。外来主治医へのフィードバックも適宜行い、当科外来における適切な薬物療法や身体的ケア推進のためのチェック機構としても機能している勉強会です。
(7) Case Conference・発達回診
ほぼ毎週、木曜日の16時から、後期研修医が病棟で担当した方について検討するカンファレンスを行っています。生活史や現病歴、精神医学的現症の記載の仕方について、後期研修医が指導医の助言を受けながらサマリーを準備し、症例提示を行います。それをたたき台として、地域での包括的支援の方針を検討するなど、リカバリー支援を念頭に置き、多職種でディスカッションを行います。発達障害をもつ方については、こころの発達診療部と合同で支援の方針を検討します。

年間を通して行われるカンファレンスを通して、主に年度の前半は、学会で発表しても恥ずかしくないサマリーの記載方法を身につけることができます。そうして培った基礎力を前提に、年度の後半には、現場でのケア会議をファシリテートする能力の向上を目指します。ストレングスモデルを念頭に、ホワイトボードを利用するなど、より視野の広いディスカッションを促し、多職種でアイディアを出し合うケア会議の運営ができるようになることは、精神科医に必要な素養の一つと考えています。

医学生の教育

これから皆さんが医学部生として勉強していくなかで、「全人的」医療人を目指せ、という言葉を頻回に耳にされるようになるかと思います。

医療において人間をトータルに診よ、ということですが、本来、当たり前のことですよね。

しかしながら、医学が進歩し、臓器別・システム別に細分化されるにつれ、この当たり前のことに、明示的に取り組まなければその本質が理解できない、身につかないようになってきています。

精神医学は、個体の「身体と脳と精神」の関係を扱い、さらにその個体が他者や社会と接する「生活」という場でどのように適応的に行動するのか、また、「個体と生活」の関係が、「人生」という時間軸に沿って、どのように発展し、ウェルビーイング(主観的幸福)が達成されるのか、ということをトータルにとらえる、「脳と生活と人生」の医学です。

この、「脳と生活と人生」のトライアングルモデルを理念に、臨床や地域との連携、学際的な研究に取り組んでいます。

細分化された現代の医学において、精神医学がそれらを統合する横串の役目をもっているからこそ、精神医学の実習や臨床初期研修は必須なのです。

疾患とは何か、障害とは何か、疾患や障害を「持つ人」とは何か、疾患や障害を持つ人をどのように支援すればそれがその人にとって幸せと言えるのか、どのようなコミュニケーション態度が医療人に求められるのか、そうしたことに自分なりの答えを持つのにも、精神医学の知識や研修経験は役立ちます。

今後、日本や世界の医学や医療をリードする若い皆さんに、精神医学の本質を知っていただき、身につけていただくことが、ひとりひとりの健康の増進につながり、結果として社会全体の幸福につながるものと信じております。

H28 非常勤講師一覧

  • 加藤 忠史:理化学研究所 脳科学総合センター
  • 秋山  剛:NTT東日本関東病院
  • 栃木  衛:帝京大学医学部附属病院
  • 大島 紀人:東京大学学生相談ネットワーク本部
  • 針間 博彦:都立松沢病院
  • 大澤 達哉:都立松沢病院
  • 高野 洋輔:こころのホームクリニック世田谷
  • 夏堀 龍暢:祐ホームクリニック
  • 西田 拓司:静岡てんかん・神経医療センター

・臨床研究者育成プログラム Mental health research course (MHRC)
医学生・研修医を対象とした、東京大学医学部臨床研究者育成プログラムの一環として、「Mental health research course(MHRC)」を立ち上げました。毎月1回のインテンシブな勉強会・セミナー・懇談を通じて、精神疾患を持つ方の支援や研究に関心のある医学生・研修医が将来どの分野でキャリア形成を行うのかを指南しています。おかげさまで学生・研修医から好評を博しています。

教室の沿革

明治19年
当教室の歴史は榊俶先生がドイツ留学から帰国した明治19年に帝国大学医科大学精神病学教室の初代教授に就任してから始まりました。この頃は巣鴨の東京府癲狂院(のちに巣鴨病院に改名、現在の松沢病院)を臨床の場としていたため、同院に精神病学教室も置かれていました。
明治34年
明治34年には呉秀三先生が教授に就任し、以後巣鴨病院ではすぐに手錠・足枷などが廃止されたことや、明治36年に日本神経学会(現在の日本精神神経学会)を設立したことなど、呉先生によってわが国の現代精神医学の基礎を築いたことが知られています。
大正8年
大正8年に巣鴨病院が松沢村(現在の東京都世田谷区)に移転し、松沢病院と改名。これに伴い精神病学教室も大学構内に移転し、昭和9年に現在の南研究棟へ移転しました。また昭和11年には三宅鑛一教授の尽力により東大医学部付属脳研究室が寄付によって創設され、今日の国内の脳研究施設の先鞭となりました。
昭和31年
昭和31年、文京区小石川の東大分院に笠松章先生を初代医長・助教授として神経科が開設されました。以後分院は平成13年の本院との統合まで50年近くにわたり、精神病理・精神療法的臨床に優れた人材を輩出してきました。
昭和33年
昭和33年に当教室名を「精神医学教室」と改称。昭和42年、精神科外来が中央診療棟に移転。翌43年、精神科医局解散が決議され、以後いわゆる病棟自主管理「闘争」がはじまりました。これが当時の大学紛争の流れの中心となって安田講堂占拠事件につながったことはよく知られています。その後長きにわたって病棟と外来が対立するという事態が続き、教室はおよそ25年にわたる停滞期が続きましたが、多くの諸先生方の努力によって、松下正明教授のもと平成6年に外来・病棟の診療が統合されることとなりました。
平成9年
平成9年、大学院講座制への移行に伴い、講座の名称が脳神経医学専攻・臨床神経精神医学講座・精神医学分野となったように、大学病院全体の変革期の始まりであった平成10年に加藤進昌前教授が就任。以後、前述の通り平成13年には医学部付属病院分院が本郷の本院に統合され、平成16年に国立大学法人法の施行に伴い、大学の名称が「国立大学法人東京大学」となるなど、大学病院全体で大きな変化がありました。当教室では、このような激変期にあっても加藤前教授を中心に、小児から老年期までの幅広い精神科臨床と、動物実験を主とした基礎的な神経科学研究および脳画像や遺伝子解析を中心とした臨床研究、さらに平成16年度から必修化となった臨床研修にも対応する研修プログラムに基づく臨床教育の三つを柱として、精神医学・医療の発展に貢献してきました。また、医療や教育の現場で対応できる児童精神医学の専門家を養成するため、平成17年に全国初の「こころの発達臨床教育センター」を開設しました。
平成20年
平成20年6月に、外来・病棟の診療統合後の入局世代である笠井清登教授が就任し、脳と生活と人生のトライアングルモデルに基づく価値精神医学の理念をもとに教室運営を進めています。